現役東大生だが、憶測で今回の東大刺傷事件の加害者“家族”を中傷する人間に辟易する

即席で文章を書き、アカウントを作成し、投稿したので、完成度の低い内容になっているかもしれない。恐らく最初で最後の投稿になると思う。どうしても今回の事件で腹に据えかねないことがあった。

 

強烈な違和感を抱いたのは、加害者の生活環境、特に家庭についての状況を憶測で語り、医学部や東大に無理やり進学させようとする加害者家族の家庭像を勝手に作り、加害者の親に今回の事件の責任を追及させようとするネット上の姿勢である。加害者に寄り添い、どんな進路でも応援すると言ってくれる大人が周りにいたらこんなことになっていなかったかもしれないのに、という意見も散見された。

 

ここで自分の身の上話になってしまうが、私は首都圏の公立高校から浪人して東大に入学した。私の家庭で国立の大学を出た者は一人もいなかった。親は私の行きたい大学について一切口を挟まなかった。自分が行きたいと言えば塾にも行かせてくれたし、私自分がやろうとしたことは最大限尊重してくれたように思う。

 

親からは東大に行けなどと一切言われない家庭だったが、私は東大に行きたかった。これを言えば特定されるかもしれないのでかなり怖いが、現役での東大受験は失敗し、いったん他の大学に入学したもののどうしても東大をあきらめきれず、仮面浪人して東大に入ったほどだ。親は仮面浪人なんて博打を打とうとしている自分を浪人中、心配しながら見守っていたと思う。

 

さて、今回の事件に話を戻したい。加害者の在籍する高校は私立の超進学校で、生徒の親のほとんどは医者であるという情報と相まって、今回の加害者の両親も医者をやっており、無理やり加害者に東大か医学部を行かせようとしていたのではないかという憶測がネット上に充満した。だが、最新の週刊誌の情報によれば、加害者の親は私立大学の職員をやっており、医者とは何の関係もない家庭であるだけでなく、加害者の親は受験勉強に前のめりになっている加害者を心配していたそうではないか(デイリー新潮『「東大刺傷事件」犯行少年の素顔 母も困惑した「理Ⅲ」への執着、学校行事での意外な一面』2022年1月19日)。確かに今回の事件について加害者の親には道義的責任はあるだろう。しかし、誹謗中傷とさえ見える今回の加害者家族への痛烈なバッシングは、どうしても納得できなかった。

 

恐ろしいことかもしれないが、私はどうしても今回の事件の加害者に自分を重ね合わせてしまうのだ。非常に不謹慎なことを言ってしまうが、もしかしたら自分も加害者と同じ道を辿っていた可能性がないとは言い切れない。私はたまたま中学生の時に家の近所に塾が建てられ、その塾の指導がとても自分に合っていたお陰で県内有数の進学校に入学できた。浪人して東大に受かった時も、合格最低点ギリギリだった。たぐいまれなる幸運を持ち、非常に危ない橋を渡り続け、奇跡的に東大に受かったように思う。だが、勉強に青春の大部分を捧げてきた自分がもし最終的に東大に落ちていたら、今頃何を思い、何を目標にして生きているのか想像もつかない。生きているかどうかさえ分からない。それは大げさだろうと笑い飛ばしてくれるだろうか。だが、少なくとも浪人中は仮面浪人特有の孤独感の中で、爆発しそうな破滅願望を抑えながら勉強を続けてきたのは事実だ。東大に受からなかったら、その破滅感情は爆発していなかったとも言い切れない。言うまでもなく仮面浪人という選択は親ではなく自分で決めたことだ。そうやって自分を追い込んで追いこんで、破滅しなかったのは辛うじて合格最低点に届いたからに過ぎない。今回の事件で加害者が親のプレッシャーをどれくらい感じていたかは分からない。けれども、彼も相当追い込まれていたのは確かだと思う。

 

どんなに家庭環境が「素晴らしい」ものであろうと、最終的には個人の問題だ。この文章で言いたいことを端的に言えばそうなる。この観点と、私のこれまでの経験に照らし合わせたら、現状の加害者家族へのバッシングはどうしても不当なものにしか見えなかった。これがこの文章を書こうと思ったきっかけである。

 

仮に今後の捜査や取材の進展で、やはり加害者の家庭環境に問題があったという話になっても、無意識のうちにそれらしいストーリーを想像する習性が、真相解明の妨げとなり、場合によっては無関係な人を巻き込む危険性があることは認識していきたい。

 

さて、こんな私もいつかは社会人になってしまう(当分大学に残るという可能性もあるが)。恐らく社会人になっても自分の人間性故に散々苦しむことになるだろう。だが、私は東大に合格する前からこのことは予想していた。東大に入っても多分自分は幸福になれるわけではないだろうと思いながらも、それでも私はどうしても東大に入りたかった。東大に入りたかった理由は詳しく述べてもしょうがないと思うが、端的に言えばくだらない自分自身のプライドである。こんなクズな人間だから、社会に出ても破滅願望を何度だって抱いてしまうだろう。どうしても破滅願望が爆発してしまった時、せめて自分は、他の人を傷つけることなく、自分で自分を始末できる人間でありたいと思う。

 

とは言ったものの、別に今の私は破滅願望を抱いているわけではない。大学はオンライン授業が多いが、一生交友を続けていきたいと心から願う仲間をたくさん作ることができた。今こうして東大生としていること、本当に恵まれていると思う。今後の人生で耐え難い困難に直面することは避けられないだろうが、それが身の破滅を引き起こすことなく、少しでも身の回りの人間や世の中に貢献できる人間になりたいと思う。

 

最後に、決して自分は今回の加害者を擁護するつもりはない。今回の事件で被害に遭った3名の方のことを想うと、言葉が出ない。また、不安の中で試験を受け、今後も受け続ける全国の受験生も非常に気の毒に感じている。全員が全員納得のいく進路を実現できるようにと言うのは綺麗ごとだとは思うが、健闘を祈っています。